制度・税務

食事補助と社会保険——所得税非課税でも「報酬」になる場合

公開 2026年9月16日 /更新 2026年9月17日

食事補助と社会保険——所得税非課税でも「報酬」になる場合

「所得税の非課税要件(50%負担・月7,500円)を満たしているから大丈夫」は、社会保険では通用しません。食事補助は社会保険上「現物給与」として扱われ、所得税とはまったく別の基準——都道府県ごとに厚生労働大臣が定める食事の価額——で報酬に算入するかどうかが判定されます。この2つの制度のズレを知らないまま制度設計をすると、「税務はクリアしたのに、社会保険の調査で報酬の届出漏れを指摘される」ことが起こり得ます。

食事補助の解説記事は多数ありますが、大半は所得税の話で終わっています。本記事はその先、社会保険側の判定を実務目線で整理します。現物給与価額の実額を使って、どういう条件で2つの判定がズレるかまで踏み込みます。所得税側の要件そのものは実務対応ガイドをご覧ください。

所得税と社会保険は「別の物差し」

所得税(非課税判定) 社会保険(報酬算入判定)
根拠 国税庁の取り扱い 日本年金機構の取り扱い(健康保険・厚生年金)
食事の評価額 実際の食事価額(税抜) 都道府県ごとの現物給与価額(厚生労働大臣告示)
判定基準 従業員が食事価額の50%以上を負担、かつ会社負担が月7,500円以下 従業員の負担額が現物給与価額の3分の2以上なら、食事の供与はないものとして扱う
判定を外れた場合 会社負担額の全額が給与課税 会社負担相当分が報酬に算入され、標準報酬月額に影響

ポイントは2つあります。第一に、評価のベースが違うこと。所得税は「実際にいくらの弁当か」で見ますが、社会保険は実売価格ではなく、都道府県別に定められた標準的な食事の価額(1人1月・1人1日・朝昼夕の1食あたり)で評価します。第二に、基準となる割合も違うこと。所得税の50%に対し、日本年金機構は「現物給与価額の3分の2以上の価額を食事代として徴収(負担)している場合、現物による食事の供与はないものとして取扱われます」としています。

つまり「税抜750円の弁当に375円補助(負担率50%)」は所得税ではOKでも、社会保険側は「現物給与価額に対して本人負担がいくらか」という別の計算で判定されます。同じ制度設計が、片方でOK・片方でNGになり得る構造です。

現物給与価額は都道府県ごとに異なり、改定されることがあります。本社と支社で都道府県が違う場合は、それぞれの勤務地の価額で判定するため、多拠点の会社ほど確認の手間が増えます。

現物給与価額はいくらか(東京都の例)

日本年金機構が公表している「全国現物給与価額一覧表」の令和8年4月1日適用分では、東京都の食事の価額は次のとおりです。

都道府県 1人1月 1人1日 朝食のみ 昼食のみ 夕食のみ
東京都 25,500円 850円 210円 300円 340円

日本年金機構が示している計算は月額ベースです。1カ月の食事代の徴収(負担)額が、その月の現物給与価額の3分の2以上なら「現物による食事の供与はないものとして取り扱う」、3分の2未満なら「現物給与価額 − 徴収(負担)額」が現物給与価額になります。3食すべてを提供している東京都の事業所なら、月25,500円の3分の2で17,000円が分かれ目です。

昼食だけを補助する制度なら、月の現物給与価額は「昼食300円 × その月の提供日数」で見ます。1食あたりの本人負担が月内で一定なら、月額の比較は1食あたりの比較と同じになるので、300円の3分の2で1食200円という目安に置き換えられます。ちょうど200円でも3分の2「以上」なので満たします。ただしメニューによって本人負担額が変わる設計では、この置き換えは成り立ちません。月の合計額どうしで比べてください。

なお、令和8年10月1日に予定されている改定は住宅の価額と算出方法が対象で、食事の価額は令和8年4月1日適用分のままです。判定の前に、日本年金機構の最新の一覧表で自社の都道府県の額を必ず確認してください。

所得税はOKなのに社会保険で算入され得る条件

2つの基準を重ねると、ズレが出るのは「食事の単価が安いとき」です。

所得税側は食事価額の50%以上を本人が負担すればよいので、単価が下がれば必要な本人負担額も下がります。一方で社会保険側の基準額は、実際の単価がいくらであっても東京都の昼食なら1食200円(300円の3分の2)で動きません。この差が、単価の安い食事で表面化します。以下は本人負担が毎食一定の場合の比較です。

食事価額(税抜) 所得税OKに必要な本人負担 東京都の昼食基準(200円) 結果
750円 375円 満たす 両方クリア
500円 250円 満たす 両方クリア
400円 200円 ちょうど200円で満たす 両方クリア(分かれ目)
300円 150円 満たさない 所得税はOK、社会保険は算入され得る

東京都で税抜400円以上の食事を50%補助で運用している限り、この理由でズレることはありません。逆に、ワンコイン以下の軽食やドリンク付きの少額メニューを補助対象に入れている会社は、所得税だけ見て設計していると社会保険側で外れます。都道府県が変われば基準額も変わるので、多拠点の会社は勤務地ごとに同じ計算をしてください。

実務での確認手順

  1. 自社の所在する都道府県の現物給与価額(食事)を、日本年金機構の「全国現物給与価額一覧表」で確認する。1人1月・1人1日・朝昼夕の1食あたりの額が定められています
  2. 1カ月の自己負担額と、その月の現物給与価額を比較する。自己負担が3分の2以上なら食事の供与はないものとして扱われ、未満なら「現物給与価額 − 本人負担額」を報酬として算入します
  3. 所得税側の判定(50%・7,500円)と両方をクリアしているかを、制度設計の段階で確認する。どちらかだけ見て設計すると、後からの修正は標準報酬・源泉の両方に波及して手戻りが大きくなります
  4. 判断が割れそうな方式(決済方法が特殊、食事の提供形態が新しい等)は、管轄の年金事務所に事前照会する。回答は記録に残し、調査時の説明資料にします

所得税側で要件を外していた場合の経理処理は食事補助の経理処理と仕訳例に、要件を外す典型パターンは外れやすい5パターンと対処法にまとめています。

所得税側の要件チェックは福利厚生経費シミュレーターで試算できます。シミュレーターが判定するのは所得税の非課税要件のみで、社会保険は本記事の手順で別途確認してください。

よくある質問

Q. 所得税で非課税なら、社会保険も自動的に対象外になりませんか?

A. なりません。制度も判定基準も別物です。実務では「税理士は所得税、社労士は社会保険」と確認先も分かれるため、制度設計時に両方へ確認するのが確実です。

Q. 社会保険で報酬に算入されると、何が起きますか?

A. 標準報酬月額が上がる方向に働き、会社・従業員双方の社会保険料に影響します。また、算入すべきものを届け出ていなかった場合、調査時に遡及して訂正を求められることがあります。

Q. 従業員がその場で自己負担分を決済する方式でも、現物給与になりますか?

A. 会社が食事そのものの提供に関与し、その費用の一部を負担している以上、社会保険上は現物給与として整理するのが出発点になります。決済の流れが特殊な方式では取り扱いの判断が分かれ得るため、導入前に管轄の年金事務所へ確認し、回答を記録に残してください。

参考にした一次情報


※本記事は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説です。現物給与価額は改定されるため、判定の前に必ず最新の一覧表をご確認ください。社会保険の個別の取り扱いは、社会保険労務士または管轄の年金事務所へ。所得税の取り扱いは顧問税理士へご確認ください。